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分析と爆発のあいだ

マハラージャン『くらえ!テレパシー』が描く言葉の「無力さ」と「力」【千夜千曲・第12夜】

「千夜千曲」計画。グッドミュージックをちょっと変わった目線でレビューします。一日一曲、音楽発掘のきっかけとなるような曲をspotifyプレイリストに追加し、選曲理由を記事に。今日は第12夜。

 

【第12夜】くらえ!テレパシー / マハラージャン
(TVアニメ『トモちゃんは女の子!』主題歌/2022.1リリース)

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恋心を相手に伝えたいけれど、面と向かって言うのは恥ずかしい。だからいっそ勝手に思いが届いてくれないかーーこんな感情を「この思い、君に届け」「気づいて欲しい、この気持ち」といった歌詞に乗せて歌う往年のラブソングは、いつの時代も恋する人間たちに優しく寄り添ってきた。

この歌も本質的には同じことを描いている......はずなのに、ちょっと毛色が違う。「くらえ!テレパシー」。すこし遠回しな、だけどやんちゃで軽やかなタイトルには主人公「トモちゃん」の思いが詰まっている。そして歌詞も最初から最後まで彼女の身悶えが伝わってくる言葉選びだ。


テレパシーとは......

テレパシー [te-lep-a-thy]

ある人の心の内容が感覚的手段によらず直接他の人に伝わること。(マイペディア百科事典より)


『トモちゃんは女の子!』はボーイッシュな女子高生・相沢智(「トモちゃん」)と鈍感な幼馴染・久保田淳一郎の物語。智は淳一郎に「好きだ」と愛の告白をするが、淳一郎は「親友として好き」と解釈し、自分も「親友として愛してる」と返すところからストーリーが始まる
。智はずっと淳一郎を異性として意識しているが、当の淳一郎は智の気持ちに全く気付かず、「幼馴染」としてしか見ていない。

何というクソ鈍感野郎......。智が随所で淳一郎をぶん殴ってしまうのもうなずける。でもこんなにまっすぐな智なら「伝われ!」「君に届け!」といった淳一郎に訴えかけるような直接的な表現が歌詞に出てきてもいいのに、と思う人も多いだろう。では、なぜ歌詞全編を通してそのような表現がないのか。超素直になるとすれば、「男勝りな彼女は恋心の直接的な表現を女々しくて恥ずかしいものだと思っている」と解釈できるだろう。けれど、ここではちょっと変わった解釈をしてみたい。


それは智が「言葉の無力さ」を感じているからなのではないだろうか。つまり、「あなたが好きです」というこれ以上ないくらい直接的な言い方をしても思いが全く伝わらないなら、言葉なんて意味ないじゃん、と感じているのだ。言葉が使い物にならないもどかしさと焦りで、智は本当にあるのかすらもわからない最終兵器「テレパシー」に頼ろうとする

ちなみにテレパシーは、自分の感情を相手に伝えるだけじゃなくて、相手の感情を読み取ることもできるらしい。送受信が両方可能なのだ。「何考えてるかわからない淳一郎」に対してもどかしく感じて、「送信=思いを伝えたい」だけではなく「受信=自分のことをどう思っているか知りたい」気持ちもテレパシーに託そうとしている。


そして最後に、この心情をより映像的にしてくれるのが歌詞の肉体感だ。《ジャブ・ストレート
》《蹴飛ばしたい》《叫びたい AHHH》と体の一部を使った「動き」の表現が目立つ。そもそもタイトルも「くらえ!」とかなりフィジカルだ。智のスポーティーな出で立ちや突飛な行動が目に浮かぶ臨場感maxの歌詞。こんなに生き生きした言葉がこれまでにあっただろうか。「言葉の無力さ」を歌う歌詞で「言葉の力」を知る。これこそがまさにマハラージャンの真骨頂であり、専売特許、誰にも真似できない技なのだ◢


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