almost...

分析と爆発のあいだ

藤井風がただただ尊い【Fujii Kaze “Free” Live 2021 ライブレポート・前編】

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https://fujiikaze.com/

「売り出し中の」アーティストが「スタジアムで」「無料で」開催するという書いてて脳がバグりそうな状況。MCの文字起こしとともに振り返っていきたいと思う。前編です。

〈目次〉

0. opening「夏の香り

「罪の香り」に進化する前の「夏の香り」。本人も「もともとは『夏の香り』ゆーすっげぇ爽やかな曲だったんですけど...」って言ってたけどその通りすぎてぶっ倒れた。

442Hz、普段よりちょっと高めに調律されたピアノが華やかだ。モノクロームの濡れた世界が広がっている。※9/12 18:24訂正。指摘くださった方ありがとうございました。

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https://youtu.be/4VUKDx0wfwY

 

1. きらり

ライブアレンジの前奏からは想像もつかない「きらり」。原曲のグルーヴ感、疾走感はそのままにPiano Arrange。そうだった、藤井風の原点は弾き語りだったんだ、ここからすべてが始まったんだと思い出す。

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https://youtu.be/4VUKDx0wfwY

間奏。跳ねるようなピアノに合わせ、世界に色が付く。色彩が戻ってきた。青と赤のスタンド、緑の芝生、藍色のジーンズに白のTシャツ。目に鮮やかだ。藤井風の弾き語りを語るときに僕がよく使うのは「歌うようなピアノ」「リズム隊いらねえじゃん」ということなのであるが、まさにこのプレイングはそれを体現してくれている。

《Ah ah ah ah》

最高潮になったところで、風は鍵盤を思い切り叩く。静寂が訪れる。

《......どこにいたの 探してたよ》

優しく歌い始める。日産スタジアムは再び熱気を帯び、そのまま「きらり」は終わりへと突入していく。

 

 

雨脚が強くなってくる。伝説のライブになる予感がする。

2015年9月6日、あのMr.Childrenの「伝説のライブ」も、9月のはじめ、土砂降りだった。

 

"Welcome babe. It's funny that I ended up live streaming from this freaking huge stadium ALONE, without any band, without any audience. It's crazy, it's cringey. "

"こんなひれー場所で、なんか一人で、誰もおらんのにライブしょーるのウケるんですけれども、まあ"

 

"At least many people have strived, many people have tried to hold this show with an audience, but...... yeah, this is what it is. This is the reality of today's world."

"たくさんの人があのー、お客さんを入れてこのコンサートをやろうとしょーてくれたんじゃけれども、あの、んー、まあこれが今のありのままの現状を表しています。"

 

"But I'm thankful for that... Umm... I feel so blessed to have this weird opportunity."

"でもこんな激レアな機会をいただけてることにめちゃくちゃ感謝してるし、めっちゃ恵まれてると思うんで......ありがとうございます。"

 

"Make yourself at home, cuz I make myself at home."

"お互いrelaxしていきましょうや。"

 

 

2曲目に移っていく。ここのMCは権利の関係でカットされているから、覚えている範囲で彼が言っていたことを書き下す。

"ワシの大好きなPop Star...... Michael Jacksonの曲をやりたいと思います。"

2. Heal the World (cover)

人種について。戦争と平和について。貧困と飢えについて。誰かを愛すること、自由、家族。地球上にあるすべての問題に向き合い、悩んで、そしてすべてを受け入れること。

この地球で生きていくことのすべてが歌われているこの曲を、今、この世界で藤井風が歌う。こんなにも尊く守るべきものがあるのか。そして彼はこうも続けた。

"彼が生きていたら、もしこの今の世界に生きていたら、どんなことを歌っただろうか、と考えたりします。"

藤井風も僕と同じことを考えていたんだと思うとなんだか胸が熱くなった。マイケルはもういない。でも、いいんです。藤井風という現代のPop Starが、こんなにも考え、悩み、発信し、愛を届けてくれているのだから。

1991年、マイケルから「Heal the World」というプレゼントを受け取った世界中の人たちも、僕らとちょうど同じような気持ちだったのかもしれない。

 

 

アーカイブで聞けなくなっているのが勿体なさすぎる。お金ならいくらでも僕が出しますんでもう一度だけ見せてもらえませんか何卒......

 

 

"次はいきなり新曲やりたいと思います。"

"I'd like to do a new song that you'd never heard of before. It's called "MO-EH-YO". "

 

"——なんかこの曲はちょっとダサいぐらいまっすぐな、ストレートな曲なんですけれども、まあ、ワシが、なに、無気力とか、なんかちょっと落ち込んだように感じとるときに、こんぐらいまっすぐで力強い曲があってもいいんじゃないんかなあと思って、ワシが必要としてたような曲です。みんなも必要としてくれてたら嬉しい。"

"The message of this song is quite straightforward and a little bit childish and green like "Cheer buddy, it's not the end of the world"-type-of-song... but I can need it,  such a song to lift me up when I feel spiritless or helpless, so I hope you need it, too. "MO-EH-YO"

3. 燃えよ(新曲)

7月末、特設サイトに突如現れた歌詞。ファンが最も心待ちにしていたであろう「燃ええよ」。その予想と期待を遥かに凌駕する圧倒的な曲と演奏。

燃えよ
あの空に燃えよ
明日なんか来ると思わずに燃えよ
クールなフリ もうええよ
強がりも もうええよ
汗かいてもええよ
恥かいてもええよ

「音符に対する言葉の数」が今までの曲に比べると極端に少ない。「一つの音符につき一つの文字」くらいのペースで、なんだか文字を置いていくような感覚に近いような気がする。

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https://youtu.be/4VUKDx0wfwY

「燃えよ」「もうええよ」「~もええよ」三種類の「MO-EH-YO」を駆使しながら全力で我々を肯定してくる。まっすぐな愛情でぶん殴られた。

簡単じゃないかもね
でも難しくはない
迷いながら探すの
それはみんな同じ

概念的なことをよく歌にする彼が、ダサいとか手抜きとかテキトーな輩に言われるかもしれないという恐れを押し殺して、こんなに素直で無垢で汚れていない詞を世に出したこと。もうすごい以外の言葉が出てこない。

あぁマジで何も怖くない
この風のって進め先へ

「風」の力、信じさせてくれ。

 

4. もうええわ

"This song is called "MO-EH-...WA". This song is about "Free". "

「もうええよ」から「もうええわ」へ。【free】を主題にした曲だから、このライブの核となる曲なのかもしれないと感じる。「燃えよ」「もうええよ」と同様、繰り返される「もうええわ」。

「”燃えよ" の後に聴く "もうええわ" 」は、なんだか「"HEHN" の2曲目に入っている "もうええわ"」とは別の曲に聴こえる。二曲が同じセットリストに共存することで化学反応が起こり、この曲が孕んだえげつない開放感だったり"自由さ"がより際立って聴こえたのかもしれない。

 

二番Aメロ。

傷口はいつかカサブタ
すぐ剥がれ落ちてサヨナラ
心だってそんな風に癒えたらいいのにな

畳みかける、心にグサグサくるやつ。次のアルバム曲の中にラップ曲ぶち込んできそうな気配、怖くて夜しかぐっすり眠れん

 

5. 優しさ

マイクを持っておもむろに立ち上げる。芝生の上を歩き、カメラをしっかり見据える。

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https://youtu.be/4VUKDx0wfwY

今何を見ていた あなたの夢を見た
優しさに殺られた あの人の木陰で
今何を見ていた あなたの影を見た
優しさに震えた あの腕の中で

晩夏の雨が加湿器となり、藤井風のパフォーマンスも熱量を上げていく。「歌唱力」という枠の中では形容できないような神聖さがそこにはある。

1フレーズ歌い上げるとピアノの前に戻り、いつもの「優しさ」。でもいつもとは違うような気がする。柔らかな表情で捧げる祈りの歌。

 

Cメロ終わり、

《Ah~》

ここ、死ぬほどゾワっとした。雨の音と、藤井風の鳴らす音の厚みと、いろんな要素がかみ合って、一瞬だがフルオーケストラに聴こえたのだ。そこには確かにストリングスがあった。弦と弓が擦れる音、松ヤニの香り、しなやかに動く左手。音楽の神様が彼に与えたギフトだと勝手に思い込んでおこうと思う。

 

 

"大丈夫っすか?ねぇ。あのー、なに?違うか。まあいいわ(笑)あのね、次は、みんなと一緒に演奏したい曲があるんやけど"
”Next song, I'd like to perform with you, with you. ...OK?”

6. 特にない

ピアノの下を叩き始める。

"Can you do this?
これできます?この手拍子。

Everytime you clap, imagine that you let go all of your negative energy like dust of your heart. By the end of this song, believe that we will be clean and shine inside and out.
手拍子するたびに、みんなの心の中にあるネガティブなエネルギーがはじけて飛んでいくようなイメージを持って、手を叩いてほしいです。この曲が終わるころにはたぶんワシら、小ぎれいになっとるはず、OK? 1,2, 1,2,3... 

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https://youtu.be/4VUKDx0wfwY

彼の言葉通り、自分の醜い気持ちが全部浄化されていくのが分かる。負のエネルギーが空に溶けてゆく。「人に優しくしろ」とか「悪いことはするな」とか押し付けれているわけじゃない。「あんたはあんたらしく、とらわれずに生きていいんやで」と受け入れてくれるだけなのに、永遠に優しく在れる気がするのである。彼の「優しさ」の本質はそこにあるのかもしれない。

 

後編に続く......

almost.hatenablog.jp

 

 

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