紅白歌合戦2021。
「原点・岡山の実家から」か......そうだよな、コロナあるし東京には来ないよな、「里庄町からの中継なら」、とレーベルが許可出したんかな...と内心ちょっとがっかりしていた。
予定通り「きらり」。膝の上に乗せた電子ピアノも、アングルも、ときどきのカメラ目線も、ちょっと粗めの音質も。変わったのは、画質だけ。地上波に、あの頃の「藤井風」がパッケージングされている。
1番のバースを歌い終わる。カメラワークも、彼の動画そっくりだ。ここからどうなるのか全く分からなかったが "「藤井風」は終わらない" これだけは確かだった。まだ何かやってくれる、という確信にも似た信頼があった。
............??????!?!??!!?!?
さすがに「実家の外でバンド隊が待っていて中継パフォーマンス」だと思っていた。「藤井風 in TOKYO」には「え?」ではなく「エ?」が出る。わかるだろうかこの違い。全国民「エ?岡山の実家にいたんじゃないのあぁた」状態。一億総大泉洋化。
あのスリッパを履けば、もうここは9月の日産スタジアム。蒼い芝生からまっすぐに立つ足は、すこしの緊張と凛々しさ、そしてあの時のみずみずしさをたたえている。国際フォーラムの温度が少しだけ上がった。風はステージ中央のグランドピアノに近づいていくとおもむろにあのイントロを弾き始める。
「燃えよ」。
風が、みんなに知ってもらいたかった曲。世の中が再開しているときに世に放ちたかった曲。「チーム藤井風」を鼓舞するために絶対必要だった曲。
歌い終わっても「藤井風」は終わらない。足を上げ、床を踏み鳴らす。東京国際フォーラム、5000人の聴衆を媒介として、「2021年」を鳴らし続ける。
わずか4分30秒の、濃密な時間だった。
藤井風は、風のように来て、風のように去っていく。
......とここで筆を置くつもりだったのだ、本来であれば。あとは星野源、バンプ、東京事変、布袋とさらっと見て蕎麦しばいて寝るか、と思っていた。
しかし、まだ、「藤井風」は終わらない。
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MISIAが「明日へ 2021」を歌い終わって、肩で息をしている。大泉洋の「ブラボー!」が入って......こない。代わりにピアノが鳴りはじめる。え?こっからもう一曲歌うの?鍵盤を映すカメラのアングルが上に。いたずらっぽいあの横顔が映る。
2人が向かい合って歌う。
藤井風のR&Bな世界観とMISIAの親和性が高そうなのはまあ昔から薄々わかっていたし実際に今年証明された。しかしステージでも親和性高すぎる。「大トリ」とはこういうものだ、と再定義されたような心持ち。
NHKの音声さん、藤井風のマイクボリューム間違えたでしょこれ。ビンビンにハモリが目立ってますけどmore......でもそれでいい。むしろ2人の声がどちらも聞こえる"Higher Love"に無限の可能性を感じてしまった。
エッ...狙ってこのバランスにしてるのあぁた??
そして2022年へ。そこにはまた別の「日産スタジアム」があった。
きっと彼は世界中を回り、「日産スタジアム」に変えてきたし、変えていくんだろう。里庄を、YouTubeを、東京を、そして、まだ行ったことのない世界中の場所を。
2022年も、「藤井風」は、終わらない。