almost...

分析と爆発のあいだ

TOMOO『オセロ』がコロナ禍への「圧倒的反撃ソング」だった件。

オセロ / TOMOO(2022ベストソング・後半 #60)

www.youtube.com

このコロナ禍でライブには入場制限がかかり、多くのアーティストたちが動員数を維持するために「1日2公演」をやらないといけなくなった。結局体力も喉も2倍消費するわけだし、アーティストとしての寿命も縮まるかもしれない。そして一回のオーディエンスが半分になったということは、レスポンス、リアクションも半分になるということ。この大変な中でもキャパを維持したままライブをやってくれるのはファンの僕らからしたら本当にありがたいことだけれど、アーティストからしたら恩恵はなにもない。

しかしそんな逆境を歌に変えてしまったアーティストがいる。シンガーソングライター・TOMOO。2022年8月リリースのメジャーデビューシングル『オセロ』が、このコロナ禍に対するカウンターとして爽快に炸裂した。ここではその炸裂具合を存分にみてほしい。キーワードは三つだ:「白黒」「表裏」「ひっくり返す」。

 

「白黒」
『オセロ』のインスピレーションは、TOMOO自身が昼夜2公演をこなしていく中で、昼と夜の2公演セットでようやく一つのライブが完成すると感じたことから始まる。それをボードゲーム「オセロ」の駒に見立てたのだ。たしかに「昼=白」+「夜=黒」でのイメージとして、そのワンセットでオセロの駒が完成する。そしてTOMOOの相棒ともいえるピアノ、これもまた白と黒だけで構成された存在だ。

「裏表」
そしてTOMOO自身の人間性について。オセロの駒のように、自分自身の中には表と裏があること。どちらが欠けてもいけなくて、両方そろって初めて本物の「自分」だ。この曲のサウンドも「表裏」を象徴するような造りだ。相反する要素が敢えてたくさん詰め込まれているように思える。ゴツゴツした質感の骨組み・ベースライン・サックス、華やかなピアノとトランペットとトロンボーン。無骨さと華やかさ、両方そろって初めて『オセロ』が完成する。

「ひっくり返る」
そもそもボードゲーム「オセロ」の語源はシェイクスピアの名作『オセロ』。いろんな境遇の人間が入り乱れ、敵味方が目まぐるしく「ひっくり返る」様子を描いた悲劇だ。そこから白黒を目まぐるしく「ひっくり返して」戦うあのボードゲームが生まれた。
「ひっくり返ること」を人生に当てがうなら、「ひっくり返る」経験。例えば、あの時つらかった思い出が、今になってプラスの経験になっている、みたいに、過去のできごとの持つ意味が180°変わってしまうこと。TOMOOはそんな自身の中の確かな実感を噛みしめながら歌詞を書いたのだろう。

 

こうして考えてみると、『オセロ』はもはやTOMOO自身のことなのではないかという気もしてくる。「昼と夜=白黒」のインスピレーションから、自分の中の「裏表」の存在、その両方がそろって初めて完成するというアイデンティティ、そして人生の中での「ひっくり返る」経験が歌詞に乗っている。つまり『オセロ』はTOMOO自身を解像度高く描き切った曲なのだ。

リスナーや世の中への所信表明として、デビュー曲がこの曲でよかったなあ、と思うし、むしろ『オセロ』以外この大役を担えないという気もしてくる。

それにしてもコロナ禍をこんなにも「ひっくり返してしまう」曲がデビューシングルとは......僕は目を白黒させてひっくり返ってます......(ウマイコトイッテヤッタゼ)

 

参考記事:TOMOO、いいも悪いもすべて肯定する決意の曲「オセロ」でメジャー進出 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

open.spotify.com