スガシカオ『国道4号線』が描く『黄金の月』の光【千夜千曲・第13夜】
「千夜千曲」計画。グッドミュージックをちょっと変わった目線でレビューします。一日一曲、音楽発掘のきっかけとなるような曲をspotifyプレイリストに追加し、選曲理由を記事に。今日は第13夜。
【第13夜】国道4号線 / スガシカオ
(2022.2リリース)
スガシカオの25周年を飾る大傑作アルバム『イノセント』の11曲目『国道4号線』。その歌詞には「黄金の月」というワードが登場する。他のアーティストの曲なら「満月のことね」とスルーしてしまうのだが、彼の曲となると事情が違う。そう、『黄金の月』とは、スガシカオの音楽を語る上で絶対に外せないあの名曲のタイトルでもあるのだ。
『黄金の月』と『国道4号線』。儚げで、絶望の中に希望が見え隠れしていて、どこか似た匂いをまとっている2曲。『黄金の月』で描いた世界は『国道4号線』にどう繋がっているのだろうか?歌詞から考察してみたい。
古来から人は夜空を見上げ、月の形から季節の移り変わりを予測していた。つまり月の満ち欠けは人間に時間の経過を教えてくれるものだったのだ。『国道4号線』でも月が時間を表す存在だと仮定して、歌詞を見てみよう。
《いつしか細い三日月は 新月にもうなってた》...①
《細くあたたかい わずかな月明かり》...②
(『国道4号線』(2023))
①・②は月の満ち欠けの描写だが、ちょっとした違和感がある。月は「新月→三日月→上弦の月→満月→下弦の月→二十七日月→新月」と形を変える。これを踏まえると①のように三日月がいきなり新月に変化することはない。つまり①の「三日月」は新月になる直前の「二十七日月」であると解釈するのが自然だ。とすると①は「消えかけの二十七日月が、ついに新月に変わり、明かりが消えてしまった」という描写だと受けとれる。新月は光を持たず、夜を照らせない。まさに「どん底」の状態、絶望の象徴だろう。
しかし同時に新月は「始まり」を告げる合図でもある。占星学でも新月は新しいことが始まる暗示だ。その言い伝えのとおり、②ではまた月が満ち始めている。新月だった月は三日月、上弦の月と変化し、やがて満月=「黄金の月」になるのだろう。月はどんどん満ちてゆく。
では、両者で歌われる「黄金の月」とは何だろうか。
《そして夜空に黄金の月をえがこう/ぼくにできるだけの光をあつめて》...③
(『黄金の月』(1997))
《どうか ぼくの未来にある光を 君が全部使ってください》...④
《ぼくの未来にある光で 君に輝いて欲しいから》...⑤
(『国道4号線』(2023))
2曲の中で光は「あつめるもの」。心にある絶望=暗闇の中からかすかな希望=光をかき集めてできるのが「黄金の月」。
月は光がないと輝くことはできない。満月になろうとするとき、光が足りなくならないように。これからは別々の道を行くけれど、夜空に「黄金の月」がきちんと輝くように、光をあつめ続けるよ(君の力になるよ)、と歌っている。
つまり④⑤の真意は、表現こそ違えど「夜空に黄金の月をえがこう」。
もう説明するまでもないだろう。『国道4号線』は2023年バージョンの『黄金の月』なのだ。『黄金の月』を書いた当時30歳のスガシカオは、56歳になり『国道4号線』を書いた。絶望の中にある微かな希望を求めて生きる、その美しさは26年経てど色褪せない。彼が描く「黄金の月」は、今も僕らの人生を照らし続ける◢