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分析と爆発のあいだ

Vaundy one man live tour "replica" ライブレポ

"Trail of Replicas creates the Original."

Vaundy one man live tour "replica"、参戦してきました。
前置きなしに、いきなり本編行きます。

今夜のステージは『まぶた』で幕をあける。一曲目に一番予想していなかったけれど、こんなにぴったりハマるのか。いやはやこれは適任。それこそのWBCで話題をかっさらっていったラーズ・ヌートバーが実は最高のリードオフマンだったみたいな。つまり『まぶた』は最高の"リードオフソング"。打率10割だった。『まぶた』にある"1曲目"としての素質を見抜いて、さらにその采配をど真ん中で的中させてしまう。Vaundy、もしかして邦楽界の栗山英樹なのでは?2曲目『灯火』へ。「元祖・リードオフマン」だ。1st AL『strobo』を幕開けさせる曲であると同時に、どんな状況でもライブの火付け役になる。なぜこんなにも「幕開け感」が強いのか、その秘密は「溜めて溜めて大爆発」にある。Aメロ→Bメロ→A→Bを繰り返してオーディエンスの○○が極限まで高まったところでサビ、ドーン。Vaundyの「溜めて溜めて大爆発ソング」と言えば『不可幸力』と思われがちだが『灯火』も負けていない。溜めた分だけ快感は大きい。サビを歌い切るとBメロに戻り、遠くに消えていく。代わってやってきたのはシンプルなエイトビート。「さあみんな元気か、踊れるかい?」と観客を煽り、最強ダンスナンバー『踊り子』へ。静かなようでうるさくて、極限まで装飾を省いているのにすごく美しくて、単調なようでいて全く飽きさせない、これはVaundyの魔法。手短にMCを済ませると、4曲目『置き手紙』。一番聴きたかった、そして一番化けてたかもしれない。リリースされたときは「ポップナンバー」だったとしても、この”箱”の中ではみんなれっきとした「ロック」なのだ。かっこよさが振り切ってた。「今伝えたいことが 僕たちが僕たちを思い合えるような 魔法の言葉」。本当に魔法の言葉。

5曲目『benefits』。一瞬でKing tut'sに変貌したこの箱は、グリーンのベールをまとい1990年のロンドンを演出する。別れの歌がホールを包み込む。《Stay, until I leave and forget, till this ends》という歌詞はVaundyなりの《Stand by me - nobody knows the way it's gonna be》(『Stand By Me』 / Oasis)の再解釈ととってもいいだろう。しかし大きく違うのは、『benefits』は確かに"2020年代の曲"だということだ。粒ぞろいの90's UK rockがVaundyの手によって色鮮やかな"2020's JP rock"にアップデートされていた。6曲目『HERO』、7曲目『裸の勇者』。2曲続けて会場の温度と聴衆の体温を上げにかかる。そこには確かにロックスターがいて、Vaundyは僕らの"ヒーロー"なんだと痛感する。8曲目『忘れ物』。これも結構ロックなんだな...と今更ながらの気づき。”ポップ”の顔をしているが気安く触るとケガをする。そんな隠れた切れ味の鋭さが、どの曲にもあるのが中毒性の所以かもしれない。

『明日動けなくなるくらいまで踊ろうぜ?』そう言って始まったのは9曲目『瞳惚れ』。会場内の全員、「総・仲野太賀」。勝手に体が揺れてしまう、これはまさに「瞳惚れ」。この気持ち良さの正体は"山下達郎イズム"だ。『SPARKLE』(1982年)のイントロ、カッティングを聴いただけでテンションが上がる、それと完全にパラレルなこの感覚。平成の"職人"の魂が、令和の"職人"・Vaundyに確かに受け継がれている。10曲目、『融解sink』は融けるような歌いまわし。現実から夢へと潜っていく。潜っているのか、それとも融けて一体化しているのか。続けて『恋風邪にのせて』。「Vaundyが『酔』『融』『瞬』っていう漢字一文字を極限までかみ砕いて歌にしたのがそれぞれ『恋風邪にのせて』『napori』『東京フラッシュ』だと思ってる」みたいなことを書いたことがあって、ここで改めて自分の言葉に納得させられる。酒に「酔っ払う」というよりは、視界がぐにゃんと曲がるような「酔い」に近い。

観客にかたりかけ、MCを終えた後12曲目『mabataki』へ。改めて感じたのは、この曲は2022年バージョンの "pain" なんだということ。Vaundyなりの「痛み」の表現。耳を傾けながら僕はmabatakiのMVを思い浮かべていた。菅田将暉演じる男が憎しみを捨て、愛を手にとるまでの4分間。この曲には目を背けられないストーリーがある。僕はじっとステージを見つめ、胸に手を当てた。余談だが、『mabataki』は4分4秒。再生時間は「4:04」と表示される。これはもしかして、「404」=「NOT FOUND」を暗示しているのかもしれない。「404 NOT FOUND」とは「クライアントの要求に対応するページが、既に存在しないこと」(引用:Ricoh公式HPを意味するが、この曲が「僕らの思い描いていた平和な未来が、既に存在しないこと」を暗示している?考えすぎかもしれないが、もしかしたら、そんな切なさが込められているのかもしれないな、などと思案したことを記録しておく。

続けて『しわあわせ』。スケールの大きな曲が2曲続けて演奏される。押しつぶされないように、僕らは必死に抵抗する。蔦谷好位置が「最強」と言ってた理由が今更身に染みてわかった。これはど真ん中のラブソング。「愛してる」を使わずに「変わらない 変われないよ 僕ら」「ちぎれない ちぎらないよ 僕ら」の言葉だけで愛のど真ん中を撃ちぬいてくる。「いまもしっかり生きている」とか、生きている、地面を踏みしめる系の曲が多いなとふと思う。Vaundy自身が生きていくことの難しさとか尊さに似たものを心の奥底で感じているからこその歌詞なのだろうか。そしてステージ上でも、彼は地面を踏みしめるように仁王立ちし歌う。

「ありがとう。さあ、ギアを変えていこうか。いけるよな?ついてこれるよな俺に?」そうして始まったのは彼の人気に火をつけた『不可幸力』。会場にも火がついたのは言うまでもない。元祖・「溜めて溜めて大爆発」はやっぱり健在だった。申し訳ないがこれはもう幸せにならざるを得ない。文字通りの"不可幸力"に僕らは押し上げられた。「おいおい、ギア上げるっていったろ?全然そんなんじゃ足りねぇぜ??」。幸せに酔いしれていた僕らを叩き起こすがごとく鳴り響くエンジン音。15曲目『CHAINSAW BLOOD』、オーディエンスの年齢層はものすごく若い。初めてのライブ参戦の人も多いのだろうか、序盤は遠慮気味だったフロアも今やセカンドギア。そして彼の一言で一気にトップギアに。一回解き放たれた若い力は、もう止まらない。皆が「もう体ぶっ壊れてもいい」くらいの勢いで頭を振り、手を伸ばし、飛び跳ねる。会場は勢いそのままに『泣き地蔵』へなだれ込む。「シクシクシクシクシク」の泣き声が爆発への合言葉となる。間髪入れずに17曲目『soramimi』。もうVaundyは止まらない。「いけるかァァァ!?!?!?」オーディエンスはそれに応えるだけ。それだけでいい。それがいい。《Distance, This Dance?》たった3語で絶頂できるくらい、僕らはもう"出来上がっている"。

「今日は、本当に、ありがとうございました。また、どっかで会おうぜ、なあ?」そういって最後始まったのは、紅白で日本中すら飲み込んだあの"怪獣"。『怪獣の花唄』だ。この曲からしか摂取できないエネルギーがある。ビタミンとかミネラルではない、「エネルギー」であり、カロリー=熱量だ。シンガロングを求めるVaundy。応じるオーディエンス。《落ちてく過去は鮮明で 見せたい未来は繊細で すぎてく日々には鈍感な君へ》《眠れない夜に》《眠らない夜を》《眠くないまだね》。僕らは飛び跳ねながら歌う。これがやりたかった。跳んで跳ねて歌って笑って泣いて。お互いに命を削りながら、命を燃やしながら。声を出せることがこんなにもうれしいなんて、昔は思いもしなかった。でも閉じこもった3年を経て、ついにまた、生命と生命のぶつかり合いができる。汗と涙でぐちゃぐちゃだった。でもそれでいい。それが生きている証拠なのだから。"怪獣"の背に乗って、僕らは遠くへと、また旅を始める。


まとめ

とにかく踊り狂った。頭振りすぎて首とれたし、飛びすぎてふくらはぎ爆発した。手上げてオベーションして、Vaundyを全身に浴びる。これ以上の幸せがあるだろうか。多幸感が時間間隔を鈍らせて、30分くらいしか経ってない感覚だ。ライブで「もう終わってしまうんだ」と寂しさを感じたのは初めてかもしれない。

 

「replica」というツアータイトル。コンセプトは「Trail of Replicas creates the Original」"模倣することが、オリジナルを作り出す"。『benefits』『瞳惚れ』に代表されるように、懐かしいレプリカたちをオリジナルに変えてしまう今のVaundyにぴったりだ。あまりにも精巧に作りこまれた彼の世界で、僕たちはいつまでも幸せに踊り続ける◢

 

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セットリスト

1. まぶた
2. 灯火
3. 踊り子
4. 置き手紙
5. benefits
6. HERO
7. 裸の勇者
8. 忘れ物
9. 瞳惚れ
10. 融解sink
11. 恋風邪にのせて
12. mabataki
13. しわあわせ
14. 不可幸力
15. CHAINSAW BLOOD
16. 泣き地蔵
17. soramimi
18. 怪獣の花唄