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分析と爆発のあいだ

すべてあなたのGrace【Fujii Kaze LASA STADIUM LIVE 2022】

2022年10月15日、またしても歴史の証人になってしまいました
Fujii Kaze LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVEに参戦してきた私「ほとんどちゃん」が心の動きを生々しくレポしていきます。

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 モニターにプリズムのような色彩が映し出される。流れる光線の中、バンドメンバーが現れる。スピーカーが震え始める。バスドラがオーディエンスの手拍子を巻き起こし、スタジアムは興奮の渦に飲み込まれる。そして...

 ステージ上に階段が出現し、その背後から藤井風がゆっくりと現れる。ん......?なんか座ってない?......!!!!座禅!!座禅してる!!MVとは反対に白装束(?)で座禅。2時間のショーは『何なんw』から幕を開ける。「na, na, na......」この時点で興奮、爆笑、号泣、驚嘆、愕然の嵐で会場がすでにカオス。「Welcome to LOVE ALL SERVE ALL Stadium Live, 立ちたい人は立ってもええで〜!」で総立ち。たった一人、藤井風を除いては。「あんたのその歯に~」え、そのまま歌うんですか、え、何なんw

 でもいっぺん歌い始めたらもうなんていうか凄すぎて。「えげつないパフォーマンスするんやろなあ」と予想して、十分に心構えして参戦したつもりだったんですけど、一曲目からなんか凄すぎて笑うしかありませんでした。あの夜を共有してくれた人ならわかると思うんですけど、一曲目で何故か笑けてくる。言葉でうまく言い表せないけれど、たぶんこれが「エクスタシー」なんだと思う。4万人を絶頂させて一気に自分のフィールドに引きずりこむ。「令和の怪物」ってコイツのことだったんですね、完全に理解した。歌い終わるとセンターステージ上までゆらりゆらり、歩いていき、鍵盤に手を伸ばす......伸ばしてしまったが最後、そこは藤井風の独壇場。ジャズピアニストが嫉妬と畏れで寝込んでしまうほどのピアノパフォーマンス。こいつにゃ勝てねぇ、とスタジアムにいる全員が思ったはず。

 ウッドベースのリフから一気にボリュームを上げ、2曲目『damn』へ。バスドラとベースで心拍コントロールされてる。勝手に心臓のBPM130にしてくる「藤井風ペースメーカー」で死ぬ。人生初・生"藤井風"でこんなん聴かされたら誰でも好きになる。"まさかこんなに惚れてまうとは" 言うてますけどmore

 尺八のソロ。あれ、ここ皇居?さっき渋谷スクランブル交差点にいたはずなんですけど......贅沢な前奏がスタジアムのボルテージを圧倒的に高めていく。「将山〜!!」。尺八奏者・長谷川将山を叫びで讃える藤井風。3曲目『へでもねーよ(LASA edit.)』。立ち回りがスタジアムライブ20年目のそれだった。貫禄と熱量で4万人を「へでもねーよ」してた。そしてsingle ver.の『へでもねーよ』と圧倒的に違うのはやはり色彩感。映像も手伝って、かつてのライブより鮮やかで、落ち着いていて、でもちゃんと"暑苦しい" 仕上がりになっていた。

「よぉ来てくれました。素晴らしい。本当にね、大変なこともいっぱいあったと思うけど、無事にこうやって来てくれて......ほんまにありがとう!」「ここの、Panasonic Stadium Suitaで音楽イベントをやるのは初めてのことで......ありがとうございます。」「どうか自分がいいように、自分をちゃんとコントロールして、自由に、みんなが気分良く帰れるように、お互い助け合って。よろしくお願いします。」本当に彼らしい、等身大のMCに泣きそうになる。

「Just be Free, just be happy. This is our time, this is our world, This is our “Garden”」と言い、始まったのは『ガーデン』。モニターに「庭」が映し出される。庭でくつろぐ藤井風、咲き誇る花々。四季の移り変わりを丁寧に描写した歌詞とシンクロする。1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』を制作して燃え尽きたところからのスタート、その最初にできた曲が『ガーデン』だった。庭に咲く花に水をやるように、オーディエンスを潤していく。社会で必死に闘う僕らを、音が蘇生していく。必死に間髪入れずに5曲目『やば。』。自分の中の「天使と悪魔の痴話喧嘩」が爆音で心を揺さぶる。喧嘩はやがて終わりを迎え、Yaffleのピアノとパラレルに遠くへと消えていく。6曲目『優しさ』。カッティングギターを軸にした新しい雰囲気の『優しさ』。キーも原曲から-1して、原曲の「冷たいピアノ」「エモーショナルなストリングス」「緊張感のあるビート」(セルフライナーノーツより)とは違う”あたたかい”『優しさ』だった。ある意味このパフォーマンスも"LASA edit."と言えるのかもしれない。

 「I'd like to perform new song」。新曲だ。会場がざわつく。そして「Feel free, and be free. Feel the "grace".」写真撮影、動画撮影OKと藤井風から告げられて、会場がさらに色めき立つ。英単語 "grace" にはいろんな訳がある。原義はギリシャ神話の三美神だそうだ。そこから近代、現代と経るにつれて「優雅さ」「気品」など様々な意味に派生していった。今日大阪に放たれた"grace"は、そのすべてを内包していた。「神の恵み」「恩寵」という原義から、「優雅さ」「気品」「愛嬌」「魅力」「親切」「祈り」まで......。432hzの響きは4万人を"grace"で満たし包んだ。

 ここでメンバー紹介。「Bass, 真船勝博!Drums, 佐治宣英!Keyboard, Yaffle!Guitar, TAKIKING!」HELP EVER ARENA TOURから変わらないメンバーに、最後の1ピース、Yaffleが加わった。藤井風の曲をもっともよく理解している男だ。もう準備は整った。

 周波数は432hzのまま8曲目『帰ろう』へ。魂がスタジアムから↓ のスタジオまで強制ワープした。くだけていて、落ち着いていて、でも洒落ていて。4万人が「寝そべりStadium」してた。

https://www.youtube.com/watch?v=RDIe6SF5IrE&t=3s

 少しの静寂の後、9曲目『さよならべいべ』。スタジアムの温度が上がる。ロックチューンの始まり。上京前夜、号泣した藤井風の心境を4万人が追体験して狂ったように手を振る。「疲れたやろ、座ってもええんやで」。センターステージに置かれたピアノに歩み寄り、鍵盤を叩く。ピアノのカデンツァから導かれるようにして『ロンリーラプソディ』が始まる。「みんな呼吸しましょう......きれいなもんだけ吸って......ネガティブなもん全部吐き出して......」4万人の「すーはー」。そういえばこんな世の中になってから深呼吸なんて全然してなかったな......と考える。11曲目『それでは、』。ピアノ一台なのに背後にオーケストラが「聴こえる」。壮大なミュージカルのよう。夕焼けとOSAKA WHEELが哀愁を添える。心地よい寂しさに浸りながら、でももうすぐ終わりなのかな、と切なくなる。

 2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』をなぞるように12曲目『"青春病"』。『LOVE ALL SERVE ALL』がこの世に出てからというもの、この曲は『それでは、』とセットでしか聴けない。だからこの二曲を連続で演ってくれるのはとてつもなくうれしかった。アルバムの曲順を決めるとき、藤井風がものすごく置き場所に困ったように、きっとこのライブでも置き場所に悩みまくったに違いない。のだけれど、ここに置いてくれて、ありがとう。あとは"青春ダンス"を無心で踊り、"青春の病"を振り落とすだけ。青春の儚さを......

 藤井風が"お色直し"。白装束から赤法被へ。目の覚めるような鮮紅色。「ここからが "祭り" の本番だ」とオーディエンスに宣言しているような。サックスソロ。真鍮を携えた立ち姿がサマになる。13曲目『死ぬのがいいわ』。そしてこれまた昭和レトロな歌詞・メロディがスタジアムに溶け込んでしまう。 "場違い" もサマになる。それが "藤井風" 。

 「ハァー~~ェエ~ィ~...ィエェェ~イ~ィエェエェ~イィエェエエェッッッッ!」とはじまった『燃えよ』。"祭り"だ。恥じらいを捨てて大の大人が4万人、夢中で腕を振っている。汗流して、恥を燃やして、手拍子して。この「風」にのって、僕らは先に進んでいく。そして『きらり』。正直この曲が一番気になっていた。"GOOD GROOVE"を体現したこの曲が、スタジアムでどんな "GROOVE" を巻き起こすのか。結果は期待以上だった。リズム隊が渦を重く、強く、けれどもしなやかなものにする。その上に3人の音が乗って、空気を揺らしていた。「Suita Stadium~~!!」 風が、その渦の中に僕たちを誘おうとしている。大丈夫です、とっくに溺れさせてもらってます。盛り上がりはそのままに『まつり』へ突入。「祭り」はいよいよクライマックス。秋の大盆踊り大会。20年生きてきてスタジアムで「ラッセーラ」するとは思わなかった。この踊り、気持ち良すぎて中毒性あるかも。花火が吹き上がり、風は高く高く"番台"へ。曲の終盤に行くにつれてスタジアムのボルテージは最高潮に。そして「ハッ!」で大爆発。心臓がトビました。

 『燃えよ』〜『きらり』〜『まつり』が3連チャンライブで大化けしてて気失いそうになった。すごすぎてむしろドン引きした。正直ここまで化けると予想してなかった。「秋の風まつり」の副題は間違ってなかった。というかドンピシャだった。完全に全生物に捧げる "祭り" だった。

「せっかくあんな花火ぶち上げてしもーてこれが最後の曲なんか思うたら、次が最後の曲ですw」「みんながperfectな存在やから。それと同時にわしらは人間じゃし、まだ学ぶこといっぱいあるなぁって感じで。わしらはみんなこの長い長い旅路の中に一緒に歩いていく同志として存在しとるので。みんなね、愛すること、生きること、諦めないでほしいなって思います。LOVE・ALL・SERVE・ALL!」と始まった17曲目、最後の曲『旅路』。「いろいろあるけど」という歌詞にグッとくる。「"いろいろあるけど" なんて歌詞に入れるのは作詞家の怠慢、歌詞は具体化すべき」というような批判をついこの間目にしたが、そうじゃないんだよなー、と。僕たちの人生には「いろいろあるけど」としか言い表しようがない「いろいろ」がある。それを一つ一つ具体化しようって方が野暮で、ここは敢えて「いろいろ」とひっくるめて受け止めてくれる、そんな歌詞なのだ。

 

 

全プログラムが終了し、「grace」を背に藤井風がステージを練り歩く。オーディエンスに感謝を伝えながら。

それを遠目に長めながら僕は、日産スタジアムでのライブを思い出していた。
今日は、あの時とは、あらゆるところが"正反対"だった。
弾き語りとバンド。
雨と晴れ。
"祈り"と"祭り"。
"静"と"動"。
"モノクロ"と"色彩"。
何もかも"正反対"なのに、なぜ、同じように幸せを感じるんだろう。

そして気づいたのは、結局、何をやっても「藤井風」だということ。
どんな会場であろうと、天気がどうであろうと、周りでどんな音がなっていようと、世界がどうなっていようと、藤井風は藤井風なのだ。

僕らがどんな状態であろうと、風は音を届けてくれる。
限りない愛と優しさをもって。
そうだ、僕らは何度も救われてきたんだ。

藤井風の"grace"に。

セットリスト

1. 何なんw
2. damn
3. へでもねーよ
<MC>
4. ガーデン
5. やば。
6. 優しさ
<MC>
7. grace
8. 帰ろう
9. さよならべいべ
<Cadenza>
10. ロンリーラプソディ
11. それでは、
12. "青春病" 
<SE>
13. 死ぬのがいいわ
14. 燃えよ
15. きらり
16. まつり
<MC>
17. 旅路