almost...

分析と爆発のあいだ

声は、とっておこう。

最近、声を出さなくなってきた。

重要事項の連絡ぐらいしか声を出す機会がない。大学行ってもほぼ無声。何かを発したいときはノートかPCで十分なので、まあとにかく声を使う機会がない。あまりにも声を出さな過ぎて不安になり、家で一人で「あー」とか「うー」とか言ってみるのだが、声帯を使わなさ過ぎて凝り固まっているのか、ドアをこじ開けているようなギーギー音しか出ない。まったく建て付けの悪い声帯だ。

そんな僕だが、先ほど一番仲の良い友人とひっさしぶりに会ってきまして。まあ僕が親戚から届いた果物をおすそ分けするために呼びつけたんですが。大学正門のモニュメント下で待ち合わせたソイツは、研究生活で少しくたびれているように見えた(お気づきの方、鋭いですね。そう、この「友人」とは、このブログで最も低俗と名高い記事「オナラした後のパンツ触った後に素手でメシを食ったらお腹を壊すのか」に登場する「細菌を研究している親友Y」と同一人物です)。

「おう」「おう」。今日初めて発した声はぶっきらぼうな、だけども体温が乗り移った、生きた言葉だった。久しぶりすぎて、そして二人とも喋りが苦手すぎてお互いの目を見ずに話す。「これ、親戚から大量にもらったんだけど、食べきれないからやるわ」。二言目は上ずった。なんだか無性にうれしかった。ああそうだ、俺はコイツと話したかったんだ。僕の声はコイツと話すためにあったんだ。もしかしたら俺は、今日のためにしばらく声を出していなかったのかもしれない。

途中まで自転車を一緒に漕いだ。バカ話をしながら、並んで走る。あの教授は最近ハゲが進行して頭頂部とおでこが繋がった、とか超熟がやけに柔らかいなと思ったら全部カビだった、とか(コイツは本当に細菌の研究をしているのか??)。今週分の笑い声を使い切るくらい笑った。


コンビニに寄る。僕はちょうど切らしていた牛乳を、彼は(実験漬けでまだ夕飯を食べていないらしく)カツ丼弁当を買った。「お前、まだ毎日こんなもん食ってんのか?」「忙しくてな、作る気力がねえんだ」「なら俺んちに夕飯食べに来いよ」「マジ?じゃあ今週の金曜行っていい?」

コイツとまた、一緒に飯を食いながら、どうでもいい話で盛り上がることができる。なんて幸せなのだろうか。コイツの名前がスケジュール帳にあるだけで、僕は声を出さなくても今週を無事に乗り切れる気がする。いやむしろ、ほかのところで声を出したらもったいない。声は、その時まで大事にとっておこう。アイツのバカ話で、大声で笑うことができるように。



(2022/10/03)