【文字起こし・中編】TENDRE - ミュージックライン 2022/9/21 21:30~
DJ南波志帆が、最新のジャパニーズ・ポップスを、癒しのトークとともにお届けします。今夜のゲストは、TENDRE。大喜利のような自分とのセッション、シャイな父と音楽で対話したレコーディング、最新アルバムに込めた多面性、色彩を語ります。高校デビュー・まゆ毛の思い出、声を最大限に活かした「ある願望」も告白。
文字起こし、中編です。前編(こちら)の続きになります。
Index:
地元・横浜
南波志帆(以下「南」):そしてこの夏には、地元横浜でのワンマンライブもありました。地元でのワンマンライブは初だったんですよね。
TENDRE(以下「T」):意外とTENDREとしては初めてでしたね。今までフェスだったりはもちろん出演はあったんですけれども、いわゆるワンマンライブっていう形で横浜でやるのは初めてでしたし。初めてっていう気も逆にしなかったんですけど、改めて思うと、すごい感慨深いものがありましたねやっぱり。
南:横浜お好きですか?
T:そうですね、地元っていうのもありますし、中・高とずっと過ごしてきたところでもありますから、観光名所的なところは全てだいたい教えられるぐらいには好きかなと思いますね。
南:魅力的なところですもんね、横浜って。
T:そうですね。なんかこう港町というんですか、ですけど観光地としてすごい栄えている部分は賑やかですし、いろんなカルチャーが集まっている街でもあるので、かなり遊びごたえのある街ではあるかなと思います。
『Gentle Hand』
南:さらにこの夏は、ORIGINAL LOVEとの楽曲『優しい手 ~ Gentle Hands』のリリースもありました。「優しい手の先に 未来はある かならず」と優しく強く歌われた曲なのですが、ORIGINAL LOVE・田島(貴男)さんとの制作はいかがでしたか?
T:すごく順調ではありました。なんていうんでしょうかね、今年の一月にライブでご一緒して、そこから田島さんからお声がけいただき、「曲作ろうよ!」みたいな。すごくフランクに接してくださる方なので、ほんとに田島さんのスタジオにお邪魔して。お互い作り方が近いというんですかね、それぞれソロアーティストとしてやってる部分もあるので、曲を構築するときの塩梅というんですかね、「ここはこういう楽器入れよう」とか「こういうフレーズ入れよう」ってそのやりとり自体はすごくスムーズだったのが、すごく僕としてはありがたいことでもあったし、すごく勉強になりましたねやっぱり。
南:SNSでは田島さんのことを「ラブアンドリスペクトフォーエバーオジキ」と呼んでましたが...(笑)、河原さんにとって田島さんってどんな方ですか?
T:いわゆる「音楽の大先輩」ってことはすごくもちろん思いますし、すごく尊敬できる方でもあるんですけれども、お話をしてるとすごくフランクにお話ししてくれる部分もあるんですけど、よき音楽仲間として接してくださる部分もあるので、そこは本当に先輩でもあり音楽仲間、といったらおこがましいですけど、そういう気持ちもあるし、ある種「親戚のおじさん」みたいな気持ちもあるので。それぐらいの距離感で一緒に音楽を楽しめる方ですね。
南:きらきらされてますもんね田島さんってずっと。
T:そうなんですよ。よくお話しをしてるときも、「僕はずっと新人なんだよ」みたいなことをおっしゃってたりとか、ほんとにつねにフレッシュな気持ちを心がけている方で、僕もこういう大人になりたいなとすごく。ずっと元気というかずっと若いですもんやっぱり。
南:しかも純度高いまま音楽が好き、っていう。理想ですよね。
T:ライブでご一緒した時も、最後の曲のここまでエネルギーあふれる人っていないよなみたいな。やっぱりちょっとこう打ちのめされたっていうんですかね、すごく尊敬してますほんとに。
南:河原さんは体力は陰りが見えてきました...?(笑)
T:いやそんなことは...(笑)
南:私は29でけっこう節々痛いんですよ。
T:あ、そうですか!いや、よく「30超えたら」みたいなこと周りの方よくおっしゃるんですけど、そんなに意外とないかもなって。
南:えー!あまりなかった?
T:そうですね、僕は今34ぐらいになるんですけど、なんか年々顔色を見ていても、意外と昔より若返ってんじゃないか、みたいな。というのも顔が変わってないんですよねきっと(笑)。基本的に20くらいからこの出で立ちというか、仕上がってるというか、年齢が追い付いてきたような感覚はあるので。でもたぶん40ぐらいになったときにまた一段大人になった感覚もあるでしょうし、そこまでにいろんな体験をしておきたいなってことは常日頃思いますね。
南:こちらの曲、ミュージックビデオも公開されてまして。本当に楽しそうに演奏するお二方が映されていて、撮影場所もとっても雰囲気がいいところですね。
T:そうですね。ほんとうに洒落たスタジオというんですかね。二人の制作している様子をそのまんま表したかのような。リラックスした状態でお互い好きな音を鳴らして、田島さんが歌うフレーズを僕が「それいいですね」ってことを言いあいながら、そんな様子が全部詰め込まれた、アットホームなビデオになりましたね。
南:田島さんのダンスがチャーミングですもんね!
T:ほんとうに映像に収まりきらないぐらいのお互いのアドリブがすごくありましてですね。田島さんが、僕が鍵盤弾いてるシーンがあるんですけれども、そのヨコで連弾のごとく引き倒す田島さんがいたりとか、こんなヤンチャなおじさんいないよな、って思ってましたね。
南:なんか見ていて幸せな気持ちになりました。
T:なんでしょうね、ぼくもなんかちょっと得体のしれない感情に...(笑)
南:ハハハハハ。
T:(笑)。親戚の、甥っ子でもないんですけど、ある種もしかしたら見方としてはお父さんみたいな感じで見えなくもないかもしれないですし、でもなんか本当にああいう様子を映像で残せたってことがすごく幸せだなって改めて思いましたね。
南:それではニューアルバム『PRISMATICS』からまた一曲をお届けしましょう。曲紹介お願いします。
T:はい。お聴きください、TENDREで『FANTASY』
2. 『FANTASY』 / TENDRE (2022)
南:ミュージックライン、お送りした曲は、今夜のゲスト・TENDREのニューアルバム『PRISMATICS』から『FANTASY』でした。軽やかに気持ちを連れ去ってくれるような、素敵な解放感と願いに満ちた美しい曲ですね。とっても響きました。
T:ありがたいお言葉をありがとうございます。
南:心地よく体が動くダンスナンバーになっていて、「好き好きに踊り明かして」という歌詞もありますが、こちらはどういった曲を目指して制作されましたか?
T:この曲はアルバムの終盤ですかね、レコーディング終盤ぐらい、最後に作った曲だったんですけど。この2年くらいですかね、本当にいろんな状況が変わっていく中で、まるでこれは映画で描かれたような世の中だ、とか、でもそれはもちろん現実であって、現実なのか幻想なのか、っていうような時代になったなってことを僕はこの数年思ってたんですけど。そういった時代を生き抜いていくにしても、例えば曲に対して僕は「FANTASY」って言葉で置き換えたんですけど、それが音楽もそうだし、創造だったりとか、そういうものにも救われてきたものであって、現実にすべて救われるわけではなく、そういうものにも救われてるから。そういった思いを持ちながら、こういう世の中ではあるけれど好き好きに、各々のタイミングで踊ってもいいし、しっとり聴いてもいいし、だけど高揚する気持ちを大事に生き抜いていきたいねっていう思いを込めて作りましたね。
南:河原さんがファンタジーから影響を受けたこととかってあります?
T:やっぱり自分の原体験だったりとか、自分が昔見た映画だったり音楽もそうですけど、そこからいろんなインスパイアみたいなものが生まれて、自分ももしかしたらこういう姿になっていいかもしれないとか。自分の状況だけでいろいろ判断してしまうと、「自分はこういう人間だからやめといたほうがいいかな」とか、そういう決めつけよりは、想像力が広がっていくうえで、自分のもしかしたら「もっとありたい姿」っていうのがあるかもしれないし。そういったところで、ファンタジーからの影響っていうのはすごくいろんなところから受けている気はしますね。
南:素敵な夢を見せてくれるし、可能性も広げてくれますもんね。
T:そうですね。それが非現実な世界だとしても、その中から見いだせる自分なりの思いだったりとか作り手の思いももちろんありますし、それを知っていくことでどんどん自分自身が豊かになっていくんじゃないかなと私は思います。
南:こんな時代だからこそ大事ですよね。
『LIGHT HOUSE』
南:アルバムのほかの曲についても伺っていきたいと思います。アルバム一曲目は先行配信もされていた『LIGHT HOUSE』という曲で、「待ってないでさ 早くおいで」と手を引いてくれるような楽曲になっておりまして、アルバムの一曲目にもなっておりますが、こちらはどんなイメージで制作されました?
T:そうですね、状況がいろんな風に変わっていってしまう世の中で、僕はやっぱり曲を作ったりとかやアルバムを作るときに、いま世の中がどういう感じなんだろうとか、そこに対して僕は何が言いたいんだろうっていうことをまず固めてから曲を作るんですけど。LIGHT HOUSEって訳すと「灯台」っていう意味で、灯台っていうのはですね、皆さんもご存じのとおり、船なんかが岸を目指すときの一つの目印だったりとかするわけじゃないですか。自分自身もそういった道しるべの一つになれたらいいなという思いがありまして。それは自分自身が光を発していくっていうんですか、で、光を発しながら僕も何かをずっと探してるんですよねきっと。それはいろんな世の中に対しての答えだったりとか、そういうものを探しながら、それはでもお互いに探しあっているものであって、お互いに道しるべになり合いながらいろんな答えをちゃんと探していこうっていう思いも込めましたし、「待ってないでさ 早くおいで」っていうのはそういった迷っている人たちに対して僕自身、音楽自身が何か連れ去ってくれるようなパワーがあるんじゃないかなってことを信じてるので、思いはかなりいろいろ積もり積もっちゃうんですよね。そんなことをイメージして作りましたね。
南:昨年ご出演されたときに、「2020年は"孤独"を、2021年は"人との対話"をテーマに書いてきた。次の作品はみんなで大きな一歩を踏める、そんなものを作りたい」ともお話しされていて、まさにそんな曲になってますよね。
T:そうですね。アルバムのコンセプトというところも、『PRISMATICS』という名前なんですが、「多面性」というところを僕は今回テーマにしたところがあって、大きな一歩を踏むにも、まず自分のいろいろな感情を受け入れることがすごく大事だなということをすごく考えてたんですよね。そこを「自分はこういう人間だから怒ってしまってはいけない」とか。「TENDRE」って名前自身にもですね、「やさしさ」って意味があったり。優しさにもいろんな種類はあるよなってことを考えたりもしたので、それをひとつずつ受け入れていくことと、人によって感情の表し方とか光の具合って変わってくるので、それを受け入れることが大きな一歩につながるんじゃないかなというところからいろんな構想が広がっていきました。
南:サウンドはダンスミュージックの要素が取り入れられていて、ビルドアップしてドロップするような展開もあったり、こういったアプローチで楽曲作りをされたことって以前もありましたか?
T:意外とあるはあるんですけれども、どうなんでしょうね、今回この『LIGHT HOUSE』っていう曲に関しても、ジャンルでいうとスラップ・ハウス(Slap House)というようなものになっていて、いわゆるちょっとラテンのリズムに近い、だけどキックは四つで鳴っている、結構テンポが速い曲が多いんですけど、意外とそういうものを海外のもので聴いていると、結構激しいビートの上にかなり伸びやかな歌モノが乗っていることが多くて。そういったニュアンスを作りたいなってことをずっと思ってたんですけど、TENDREの音楽自身で、歌はやっぱり大事にしつつ、サウンドアプローチっていうのもすごく常に面白いものを探していきたいなって思ったので、『LIGHT HOUSE』に関しては結構いろんな挑戦ができた曲にはなってると思いますね。
南:常に進化し続けてますもんね、TENDREさん。
T:自分で進化できているかは正直わからないんですけど、でもなんかそういっていただけるとすごくうれしいですし、時々によって興味って変わるわけじゃないですか、「今、こういうしっとりしたムード(がいい)」ってときもあるし、なんか今回のアルバムに関してはバリエーション豊かに作りたいってことがすごくあって、しっとりした曲も好きですし、アップテンポなのも好きだからこそ、そこに自分のいろんな感情を乗せていけば多分それが色鮮やかなアルバムになるんじゃないかなってところにつながっていったのかなと思います。
南:『LIGHT HOUSE』には「落ちている様で 浮かんでる様で 漂っているんだ」という歌詞があって、先ほどお届けした『FANTASY』でも「どちらへ向かえば?」という歌詞があったり、収録曲には『MISTY』=「霧深い」とか、『CLOUD』=「曇り」があったり、「どちらでもない」「あいまい」「ぼやけている」ということがキーとして見え隠れしたりもするんですけど、今回のアルバム制作をするうえで、どんなことをコンセプトに持ってきましたか?
T:そうですね、「色鮮やか」ってことは曲のバリエーションだったりとかいわゆる緩急だったりってところは意識したんですけど、意外と気づいてみると前半後半でちょっと色彩感っていうんですかね、解像度が若干変わっている気がしまして。今おっしゃっていただいたみたいに『MISTY』=「霧がかった」、『CLOUD』=「雲」ですよね。前半に曇りの中から探しているっていうんですかね、間を縫っていくというのか。そこから後半につれてだんだんこう色彩が広がっていくようなそういったストーリーみたいなことをすごく意識したのかもしれないですね。
南:当時の俺は、っていう。
T:そうですね。特にやっぱりこの2年間っていうのは積年の思いみたいなのがすごく強いとは思うので、そういった中で、なんでしょうね、たくましく生きていきたいなってことはすごく思うんですよ。でもそれはやっぱりいろんなものをすり減らしてしまうこともあるし、我慢しないといけないとかそういうものもあるかもしれないですけど、やっぱり基本的にありのままでいられることが一番いいじゃないですか。それはやっぱりアーティスト活動をするうえで、音楽でこう何か固まってしまうよりは、常日頃変化を探していくというんですかね、自分なりの答えっていうのがそこには必ずどこかにはあるので、そういったこの一年くらいの経過というものをこのアルバムで表せたような気はします。
南:素晴らしいですね。
後編に続く
後編はこちら。