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分析と爆発のあいだ

【文字起こし・後編】TENDRE - ミュージックライン 2022/9/21 21:30~

らじる on Twitter: "【#聴き逃し配信 のお知らせ】 TENDREさんが出演した「ミュージックライン」は放送後から1週間、何度でもお聴きになれます⏳  #らじるらじる のサイトやアプリからお楽しみください👋 #ミュージックライン #TENDRE #南波志帆 聴き逃し配信はこちら ...

DJ南波志帆が、最新のジャパニーズ・ポップスを、癒しのトークとともにお届けします。今夜のゲストは、TENDRE。大喜利のような自分とのセッション、シャイな父と音楽で対話したレコーディング、最新アルバムに込めた多面性、色彩を語ります。高校デビュー・まゆ毛の思い出、声を最大限に活かした「ある願望」も告白。

文字起こし、後編です。中編(こちら)の続きになります。

Index:

 

 

『MISTY』

南:アルバム『PRISMATICS』、音楽的にも本当に幅が広いアルバムになっていて、『MISTY』という曲はどこか不穏で、妖しげで、音で空間を埋め尽くすような展開もあったり、あまりこれまでの「TENDRE」のイメージにない曲だったんですけど。
T:そうですね。
南:サウンドはどのように作られていったんですか?
T:『MISTY』に関しては、ドラマーの松浦大樹という男がいるんですが、TENDREのバンドセットの時に常に叩いてくれるドラマーでして、その彼と最初ビートの土台を作っていったんですけど。僕がちょうどその時に、制作に悩んでいた時期があったんですね。それをいわゆる「霧がかった状態」に置き換えて、常日頃自分の音楽的正解、あと言葉として何を導きたいかっていうのをずっと探し回ってるわけなんですけど、その松浦大樹という男はですね、すごくいい言葉を発してくれたりとか、彼自身もアーティスト活動として歌っていたりもするので、そういった彼に答えを教えてもらったっていうんですかね、熱い想いを伝えてくれたりとかで。彼のシルエットを僕はもしかしたら探していたのかもしれないみたいな、そんなイメージを持って作ったのがこの曲ですね。
南:途中すごい歪みのギターパートもあって。
T:あれは...僕あんまりそんなに怒んないんですよ。怒んないんですけど、でも怒りって必ず誰しもいろんな形であるとは思うんですよね、それがじゃあ自分自身でどういうときに怒るのかって、友達との話とかでよく話(をすることが)あるじゃないですか。でも、誰かを守るときのためにちゃんと怒りはとっておきたいなというか。それをこうギターで表してみたというか。そこは敢えて曇らせたサウンドで、ボーカルでさりげなく言っているような場面にしたんですけど、そこで爆発するような怒りっていうのも、もちろん自分の内なるものにはあるので、そこは音で表してみようかなっていうアプローチになってますね。
南:本当にこだわりがすごいですね。
T:自分自身でいろんな楽器を重ねていると、自分自身との対話というんですか、セッションみたいな形になってくるので、一個前の自分に対しての答えを出していく「大喜利」が続いてるんですよずっと。その「大喜利」の結果、ああいうギターの怒りを表したサウンドになって、その後にすぐ戻るというような、ドラマが図らずも生まれたというんですかね、そんな感じです。

 

『MOON』

南:そして続きまして『MOON』という曲はウッドベースから始まるクラシックなジャズナンバーで、空間を感じる演奏ですが、レコーディングはどんな感じでされたんですか?
T:レコーディングは父を呼びましてですね。
南:ハッ......!「Shy Woodbass」ってクレジットに書かれてましたけど...
T:河原家屈指のシャイな男(笑)。
南:ハハハハハ。
T:うちの父はすごく恥ずかしがり屋で、けれど自分のやっていることに一つ一つすごい誇りを持っている人間なんですけれども、父と制作をするっていうのが生まれてこの方なかなかなくてですね、このタイミングだからこそ、ずっといつかはやりたいと思っていた思いがあったんで、父をスタジオに直接呼んで、その場で譜面を渡して、まああらかじめちょっと聴いてもらってた部分はあったんですけども、2人で試し試しにサウンドを作りながら。でもなんか不思議な感じというんですか、こっ恥ずかしい気持ちもあるんだけど、すごく話が早かったりもしたので、今まで近い距離にいたのに、いい意味で遠かったりとか、そういったいろんな想いがほんとに溢れかえった、そんなスタジオでしたね。
南:めちゃくちゃ良い時間ですね。
T:ね。人生において僕はすごく必要だった瞬間だろうなって後々思ったんですけど。なんかこう実家に帰った時に、軽く話はもちろんするんですけど、熱い話をする父ではないんですよね。どちらかというと母とはかなり熱烈な話をしたりとか、音楽に関してとか、世の中に対しての話をするんですけど、父とは軽い会話ぐらいしかなかったので、だったら音楽で会話をすればいいんじゃないかなっていうところで、これが好機かなというところで。父を呼び、無事に出来上がりましたね。
南:お父様なんとおっしゃってました?
T:ミックス作業、仕上げ作業をしているときに何度か聴かせたんですけど、そこはやっぱり職業柄なのか、何回も「やり直したい」っていうことをすごい言ってくれてて。「いや、ちょっと俺はやっぱここの感じもうちょいちゃんとやりたかったなあ」みたいな。
南:プロフェッショナルだなあ。
T:そうですね。そこは僕としてもやっぱすごく「さすがやな」と思ったんですけど、でも、多分このレコーディングの最初の段階で録れた、いい「初々しさ」っていうんですかね、それが多分この曲の醍醐味になってくるんだろうなと、僕は作曲家目線で捉えたので、敢えてこの感じで行こうかなと。で、まあこの曲で(父との)レコーディングは終わるわけじゃなくて、作るときに父を呼びたいと思っているので、これを始まりとしてここから一緒に制作ができたらなあという風に思ってます。
南:めちゃくちゃいいですね!親子で。
T:そうですね、同じ生業としてですけど、同じ音楽家として尊敬を一番してるのは僕の場合は両親だと思っているので、両親に対してこれが恩返しになるかどうかはわかんないんですけど、自然な形で一緒に仕事ができるというんですかね、それを自分のなかでもすごくかけがえのない瞬間ではあるので、着実に作っていけたらいいなと思ってますね。
南:『MOON』はアルバムの中ではどんな立ち位置なんですかね?
T:アルバムの中でどうなんだろうなぁ......一度家に帰ってきた感じなのかもしれないですね。僕が実家に帰ってきた感覚にも近いかもしれないですけど、外の世界でいろんな景色を見ていって、その中でいい意味で揉まれていって、自分の考えを見出していく、でそのあたりで一度家にたどり着くっていうんですかね。そこで家にたどり着いてから、ふと窓を開けて、夜の月が見えて、というような。そういったイメージはあるかもしれないです。

 

「歌」への向き合い方

南:ニューアルバムのレコーディングが終わったタイミングで、河原さん、「やはりわたしは楽器がだいすき そして歌がもっとすきになりました✌️」とSNSで投稿されておりまして、アルバム制作で、歌への向き合い方にも変化があったんですか?
T:そうですね、TENDRE自体が今年5年目ぐらいになるんですかね、自分自身バンドで歌ってるのももちろんあるんですけど、TENDREとして、一人の歌い手として意識することっていうのは年々すごく変わってきているというか。歌詞を書くにしても自分なりの言葉をずっと探し求めて、その中で自分らしい声とは何なのかってことをすごく今年も考えさせられたというんですか、それがアップテンポな時においても、じゃあ自分がどういう佇まいでいたら自分らしくあれるのかとか、そこの在り方というのを考えていったときに、意外とあんまり張り切って歌いすぎなくてもいい場面もあるし、こういうところはこういうこぶしの利かせ方があっても意外といいかもなっていう、いろんな発見が今年は多かったのかもしれないですね。
南:じゃあ歌がもっと楽しくなった、今年。
T:そうですね。あとは弾き語りをこの2年ぐらいで結構やることが増えてきたってのも関係するのかもしれないですね。今年の8月ぐらいに弾き語りの小旅行っていうんですかね、関西のほうに行って、京都と神戸で弾き語りのイベントを自ら開催したんですけど、現地にあるグランドピアノだったりアップライトピアノだったりと自分の声だけでライブをするっていう。
南:じゃあもう向き合いますもんね。
T:向き合ったときに、その向き合ったライブの中で発見できることも多かったのと、あとは本編の中でマイクを使わずに生声で歌ってみようっていう現場での閃きがあったんですけど、それをやったときに、意外とこの感じでも伝わるものがあるんだなっていうのが。逆に伝わりやすいのかもしれないってことが結構自分のなかででかい発見になって。常日頃マイクなしでってことではないですけど、音響なしで生声で歌うことによって自分の会話と歌声の狭間を見るっていうんですかね、そこはすごくでかい発見になったというのか。意外とこれぐらいの声のニュアンスをもしかしたら自分はずっと伝えたかったのかもなっていう気づきになったのかもしれないですね。
南:いい気づきですね!
T:そうですね。いろんな音楽シーンを見ているとかなりハイトーンな音楽が多くて、そういった方の歌声もすごく憧れるし、僕自身はローミッド寄りの声ではあるので、そういったところで自分の声が活きる歌い方ってなんだろうなっていうのはずっと考えてはいるんですけど、そういったときにそこに合ったムードの作り方とか、僕なりの言葉の響かせ方というのは多分あるとは思うんで、それを探求できたのは今年すごいでかかったのかなと思います。

 

3. 『PRISM』 / TENDRE (2022)

南:このあとアルバムから最後の曲『PRISM』をお届けします。穏やかで、神聖なものすら感じる曲なんですけど、アルバムを締める曲としてどんなものが出来上がりましたか?
T:本当にアルバムを締めるために作れたかなあという風に思ってはいて、この『PRISMATICS』というアルバムで伝えたいことを集約した曲にはなってますね。タイトルの如くといいますか、いろんな影響を受けて自分自身から出ていく言葉っていろんな色があるような例えが僕の中にはあるんですけど、それを人によっても言葉の伝え方だったりとかそういったものって違うものがあるし、それを受け入れるってことが今でいう「多様性」ってことだったりとか、そういうものを受け入れることにもつながりますし、そういった受け入れがどんどん広がっていったら、それこそ本当に色鮮やかな世界になるんじゃないかなっていう。そんな思いを込めたこういうアウトロがあったりとか。そういう「まぶしい」っていうんですかね、「きらきらとした」っていうんですかね、それは本当に人によってとらえ方は違うとは思うんですけど、でも「内なる煌き」というものを各々持っていると思いますから、そういったものを各々が見つけられるようなきっかけになれたら、というような思いを込めて、入れました。

南:それではニューアルバム『PRISMATICS』からその曲をお届けしましょう。曲紹介をお願いします。
T:それではお聴きください。TENDREで『PRISM』

 

「PRISMATICS ONE-MAN TOUR」に向けて

南:ミュージックライン、お送りした曲は今夜のゲスト・TENDREのニューアルバム『PRISMATICS』から『PRISM』でした。優しく心を満たしてくれるような、神秘的でまろやかでロマンチックな曲で、なんだかすーっと透き通った気持ちになりました。浄化されました。
T:いつもありがたいお言葉をありがとうございます(笑)。

南:アルバムをリリースされて、全国ツアーも控えております。どんなツアーになりそうですか?
T:いま、年に1枚アルバムを作っていってるんですけども、バンドと一緒に演奏する、そのスタイルはだんだん仕上がってきた感じがすごくあるなと個人的にも思ってまして、アルバムがすごく多彩というんですかね、色鮮やかなものになったので、かなりバリエーションに富んだライブパフォーマンスができたらいいな、という風に、いまいろいろ準備はしているところです。
南:楽しみですね。

 

エンディングトーク

南:それでは最後になりますが、お聴きの方にメッセージをいただけますでしょうか?
T:いろんなことがある世の中ですけれども、僕自身はずっとたくましく生きていきたいということを思ってはいるんですね。でも、「たくましく」っていう言葉も、「強さ」ってこともいろんなことを考えさせるものがあって、それは自分一人では見つけられないものではあるし、だけど一緒に考えればわかることもあると思うのでね。アルバムを聴いて...というところもありますけれども、去年から続いた「想像力」っていうところから意外とこういった考えもあるっていう、それぞれの光っていうのを受け入れられるように僕は生きていけたらなと、僕は思ってます。それが皆さんと一緒に出来たら、すごくうれしいです。
南:ありがとうございます。今夜のゲストはTENDRE・河原太朗さんでした。本当に楽しい時間をありがとうございました!